マイクル・ムアコック著「メルニボネの皇子」。言わずとしれた欧米(アンチ)ヒロイックファンタジーの巨頭。さまざまなクリエータが影響を受けたであろう名作です。学生の時に買った文庫が出てきたので、何回目になるかわからない再読ですが、やっぱ薄いけど内容が濃いわ。出張移動中にすぐに読んでしまうかと思ったけど、けっこう保ちます。内容はエルリックの人生に最後まで影を落とす、イイルクーンとの確執、サイモリルとの愛、魔剣との邂逅などのエピソードなどがてんこ盛り。ある意味ストレートな冒険活劇ですが、要所要所でエルリックのペシミスティックな感情がいい味だしてます。いやあ当時はかなりはまりました。手持ちの本は昔の装丁なので上図の新装版の表紙よりあっさり目ですが、天野さんのすばらしい表紙と挿絵(新装版にはないようで)は当時から評判でした。ただ井辻さんには悪いけどアリオッホはないぞアリオッホは。
アーシュラ・K・ル=グウィン著「影との戦い」。若き魔法使いの葛藤と成長を描く物語、と書くと児童小説めいているが、中身は社会小説?かな。アースシーという世界を通して、現実社会のひずみを垣間見せる。などと書くと難しそうだがお話としては冒険小説としてしっかり完成されているので、気にせず読んでも楽しめる。個人的には物語背景にすすけ見える現実社会のアナロジーとそれらへの批判めいた香りが漂うあたりはちょっと苦手。
フィリップ・K・ディック著「ドクター・ブラッドマネー」。いつのまにこんなの買ったっけ?本棚に埋もれているのを発見。2005年のレシートがはさまっていた笑。ディック中期の長編。核戦争、フリークス、超能力、ネズミ取りロボット、墓場世界など、いつものガジェットは揃っていて、核戦争後の復興期の情景描写は当時としてはリアリティにあふれている。ただお得意の現実喪失感はちょっと抑え目。最後のブルートゲルト、ホッピー、エディ、ビルのやりとりはディックらしさが垣間見える。再読のはずなのだがすっかり内容を忘れていて、ちょっぴり得?した感じでした。ちょっと待て、結局ドクター・ブラッドマネーってだれのことだ?。
いわずとしれたラブクラフト全集。久しぶりに読み返したが人知を超えたところ宇宙の恐怖を描き切るためか、やはり内容の書き込みは半端ない。ねちこくもある背景描写と心理描写は、短編にもかかわらず、結構読むのに時間がかかるが、不思議と苦にならない。というか他のやつが中身が薄いのか。
道尾秀介「背の眼」、心霊現象を求めつつ心霊能力のない探偵が、その心霊能力から事件に巻き込まれるワトソン役が持ち込んだ事件から、能力者的助手と怪奇的シチュエーションの中、真犯人は探し当てるというもの。ストリーはホラー雰囲気が主でワタシ好みなんですが、ミステリー要素が今回「え、その人でええんかい」とちょっと個人的には不満です、でも良質のミステリー&ホラーです。
綾辻行人の「十角館の殺人」。これも以前読んだが再読モノ。推理小説として王道の嵐の山荘もので、初読では最後の最後まで犯人がわからなかった覚えあり。ネタがばれるとちょっと叙述?トリック的にも思えるが、一読の価値あり。初期の作品のため、まだ中村青司をめぐる幻想的背景が確立していないが、それを抜きにしても綾辻らしい逸品である。
森博嗣の「すべてがFになる」。人間を逸脱した人が人間を逸脱した動機によって世間から逸脱した事件を起こす。それは世間の枠内で読み取れることはできず、ただ事実を解き明かしていく、というか羅列していくミステリです。最近の作はケレン味なのか計算なのかさらに説明をしないことで背後の余韻を残す傾向ですが、このころの作品はまだちゃんと犀川教授が解説してくれますのでひと安心(笑)。それにしてもチートすぎる犯人だ。
[amazonjs asin="4150109133" locale="JP" title="太陽の炎 (ハヤカワ文庫SF)"]J.A.エフィンジャーのマリードものの続編。パパの権力の一端を得て、前回よりすこしパパのライバル、アブー・アーディルが加わり、二人の老人たちの策謀に翻弄されるマリード。事件を解決することで、運命をこの手にすこしは取り戻したかに見えましたが、それでもやはりそれはパパの手の平の上、自分の思いどおりにならない運命から逃れられていないことををあらためて思い知らされることとなります。と書くとストーリーは暗いはずですが、決してそうは見えず、軽快にブーダイン闊歩していくその姿はマリードの人徳のなせる技でしょうか。ブーダインを含むサイバーパンク的世界観が前回よりすこしづつ垣間見えてきてSF好きには逸品です。
また出張移動中で読みつぶし。駅の売店で購入。有栖川はたまに読むので、前に読んだ気もするが読んでみると覚えているようで覚えていない。それよりこのトリックどこかで最近見た気がするんだけどなぁ…。
京極夏彦もの。あいからわずの京極節で妖怪豆腐小僧の冒険?が語られていきますが、いやあ一気に読んでしまいました。最後の始末の付け方はまんま落語です。笑わせてもらいました。